三田健一の映画の小噺⑤ ディズニー長編アニメーション「ノートルダムの鐘」

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ディズニーといえば夢と魔法。明るいキャラクター達が私たちに魔法をかけて夢を見させてくれる。「白雪姫」や「ピノキオ」など、ディズニーの手掛けるアニメーション映画は常に時代の一歩先を進んでおり、私たち視聴者はいつも驚かされてばかりだ。漫画の神様とうたわれた手塚治虫も「バンビ」を100回以上も鑑賞して参考にしたと言われているくらいの影響力を持ち、今では3DCGアニメなどにも精力的に取り組み、衰える事なくアニメーション映画という業界を引っ張っていっている。
そのディズニーのアニメ映画も、全てが全てファンタジーの世界というわけではない。中には一風変わった作品も存在する。今回は、ディズニーの中でも珍しい存在である「ノートルダムの鐘」について語ろうと思う。

「ノートルダムの鐘」のあらすじ

ノートルダムの鐘出典:http://fcmfcm.blog.so-net.ne.jp/2011-07-16-1

15世紀のパリ、ジプシー狩りをする判事のフロロー。最後まで逃げたジプシーの女は、ノートルダム大聖堂の前でフロローに殺されてしまった。彼女が抱いていた赤子を見たフロローは、そのあまりの容姿の醜さに驚き、井戸に捨ててしまおうとする。しかしそこへノートルダム大聖堂の司祭が現れ、彼はフロローにジプシーを殺そうとした罪と赤ん坊を殺そうとした罪を償わせるため、その赤ん坊をフロローに育てるように言いつける。そして20年の月日が経ち、『カジモド』と名付けられた赤ん坊は醜い容姿をしながらも純粋な心を持った青年に成長した。ノートルダム大聖堂の鐘楼から出たことのない彼にとって、話し相手は石像だけだった。ある日、街では祭りが行われ、興味を持つカジモドだったが……。

ディズニー的要素の少なさと、鬱展開の多さ

ノートルダムの鐘出典:http://ur0.biz/CQug

この映画におけるディズニー的なファンタジー要素をご紹介しよう。途中途中で挟まれるミュージカル調の楽曲と、カジモドの話相手である石像たちが実際に喋る、そのくらいだ。繰り返そう、ディズニー的要素はそのぐらいである。魔法もなければプリンセスもいない、ついでに言うなら大きな問題の解決もなければ恋の成就もない、この映画はそんな映画だ。その上、一般的なディズニー映画だと思って鑑賞すると、精神的にダメージを追う可能性があるということをここに書いておきたい。
まず主人公のカジモドは先天的なくる病患者であり、その上フロローによって20年間ノートルダム大聖堂の鐘楼に軟禁されて生活していた。この前提の時点で他のディズニー映画とはちょっと違うなと感じる事ができるだろう。個人的な感想を言うならば、前提の時点で人を悲しい気持ちにするのはどうかと思うが、その際これは置いておこう。そんな主人公が『幸せになりたいがなれない』という状況を描いた映画だ。人によっては鬱映画に分類されることもあるだろう。
恋の成就がないというのはディズニー映画としては珍しく、大げさに言うなら致命的だ。作中では唯一自分をかばってくれた存在のエスメラルダに対し、カジモドは初めての恋を抱く。しかしエスメラルダはカジモドよりも、『かっこ良くて人望も厚く頼れる男性』であるところのフィーバスを選び、フィーバスもそれに答えるかのような素振りを見せる。多くの人々がディズニー映画に抱いている淡い幻想を徹底的に打ち砕いたような映画は、やはり珍しい存在だろう。

最大の鬱シーン、エスメラルダとフィーバスの関係

ノートルダムの鐘出典:http://disneyjuniorblog.blogspot.jp/2013/01/the-hunchback-of-notre-dame-1996-dark.html

初めて大聖堂の外に出るカジモドは、街の人々に醜い容姿を笑われ、暴力のやり玉にあげられるところだった。そんな彼を救ったのがジプシーの少女エスメラルダ。カジモドの心の美しさを唯一理解してくれたエスメラルダは、カジモドにとって初めての友人であり、同時に初恋の相手でもあった。だが何度も言うように、カジモドのこの恋は成就しない。後から現れる護衛隊の隊長フィーバスとエスメラルダは結ばれることになり、カジモドは自分が選ばれなかった事実を知って涙を流すのだ。
作中で、親衛隊を離反したことで怪我を負わされたフィーバスがエスメラルダに連れられて大聖堂にやってくる場面がある。心の優しいカジモドは彼を自室に運び、自分の寝床に寝かせるのだ。その後である、フィーバスとエスメラルダがお互いに想っているのが露呈するのは。目をつぶって抱きしめ合う二人をそっと影で眺めて涙するカジモド。そんな事は知らずにお互いの愛を確かめ合う二人。それもカジモドの部屋で、カジモドの寝床の上で!
つい先日まで他者と交流を持ったことのなかったカジモドにとっては襲い来るドラマの連続に疲弊していたことだろう。だがそんな中でも心に生まれた感情を大切にしたかったはずだ。それを目の前で粉々に砕かれるのはどれだけ辛い事だっただろう。しかも、その理由も暗に『見た目が気持ち悪いから』と裏付けされてしまっているから本当に救いがない。視聴者に勇気を与えるどころか、視聴者の勇気を根こそぎ奪い取るという残酷さだ。

それでもこの映画は“名作”である

ノートルダムの鐘出典:https://alchetron.com/The-Hunchback-of-Notre-Dame-(1996-film)-20608-W

鬱展開ばかりを挙げてきたが、決してこの映画自体を非難するものではないことを理解していただきたい。むしろこの映画は素晴らしい!この映画の持つ雰囲気は何物にも代えられず、本当の意味で唯一無二だ。この作品の持つ暗く鬱屈とした雰囲気の中で展開する愛憎のドラマ、要所に挟まるミュージカル調の歌、そしてどこか“こじらせた”感じのあるキャラクター達。この映画は、ずばり『子供向けではない、従来のディズニー作品とは一線を画すものだ』と理解して観ればそこまで酷く感じるものではないのだ。単純に言ってしまえば大人向けの映画である。
1990年代のディズニーが取り入れてきたミュージカル風作品の流れを受け継ぐ本作。楽曲の素晴らしさを高く評価する人も多い。タイトルを冠した楽曲『ノートルダムの鐘』は耳にした事がある人は多いのではないだろうか。こちらは東京ディズニーランドなどでもよく使われ、今でも人気が高い事を伺える。OPで使われたこの曲の終わりから、鐘を鳴らすカジモドのシーンに繋がっていく様子は私にとって最も印象的な映画の導入と言ってしまってもいい。

原作小説を知るとまた違った楽しみ方ができる

ノートルダムの鐘出典:http://archimodelsinfilm.com/post/148449753678/the-hunchback-of-notre-dame

ヴィクトル・ユーゴーの小説『ノートルダム・ド・パリ(ノートルダムのせむし男)』を紐解いてみたい。ざっくりとしたあらすじを記すと、『エスメラルダという美しい女性をめぐって三人の男が争う』というものだ。圧倒的に美しいジプシーの女性・エスメラルダをめぐって聖職者であるフロロ、醜い容姿をした鐘つき男のカジモド、好色な美男子フェビュスがドラマを展開するというものだ。
誰が悪い、とは一概に言えるものではないが、悪いものをはっきりとさせるならば、それはエスメラルダの絶世の美しさではないだろうか。美しすぎるがゆえに男達を惑わせることになるのだ。そして、それは生まれながらにして醜い容姿を持っているカジモドとの対比がなされている。美しいものと醜いもの、誰からも求められる存在と、誰にも求められない存在。原作小説ではあえて誰が主人公だという書き方はされてないが、タイトルの“せむし男”はカジモドを指すし、物語の終わりもカジモドの最期を匂わせている。原作小説を読む機会があれば、ディズニーによる脚色が加えられた「ノートルダムの鐘」と比べて楽しんでみるのもいいかもしれない。

終わりに

ノートルダムの鐘出典:http://moviemicah.blogspot.jp/2014/05/the-hunchback-of-notre-dame-1996-g.html

私は幼い頃にこの映画を観た。理解が及ばず、全然物語にのめり込む事ができなかったのを覚えている。自分にとって期待したディズニー作品ではなかったのだ。ただそれだけの事で、自分はこの映画を『良くないもの』だと決め付けていた部分がある。今となっては反省したい思い出だ。ある程度の年齢になってからこの映画を観ると、当然ではあるが幼少期よりも理解が進んで驚く部分がたくさんあった。そして、この映画の奥深さに気付いて感銘を受ける。自分の中の『映画の記憶』を書き換えるのはなかなか新鮮な体験だった。
この映画を二文字で表すなら、やはり『愛憎』あたりではないかと思う。全体的に救いがなく、壮大な音楽と映像美に秀でていて、それでいて最後はハッピーエンドで終わらせようとするこの映画がより多くの人に好まれ、多くの人に愛されればいいなと私は感じている。

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映画みちゃお!の映画情報

題名 ノートルダムの鐘
ジャンル ドラマ
監督 ゲイリー・トゥルースデイル
カーク・ワイズ
出演 トム・ハルス
デミ・ムーア
制作年度 1996年
本編時間 90分
製作国 アメリカ

ライタープロフィール

三田健一
三田健一
26歳。自称インターネット長文屋さん。
文字書きとして創作活動をする傍ら、2016年より映画みちゃお!の編集担当Aとして勤務。
好きな食べ物はバウムクーヘンと天下一品ラーメンです。

ライター:三田健一