三田健一の映画の小噺③ ジョーイ・アンサー監督作品「ストリートファイター 暗殺拳」

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格闘ゲームはお好きですか。私は大好きです。今の30代前後の世代が夢中になった格闘ゲームブーム、それを巻き起こしたのが『ストリートファイターⅡ』だ。今回紹介する映画は「ストリートファイター 暗殺拳」。イギリス人俳優、ジョーイ・アンサーが自ら監督を務め、『ストリートファイター』の世界を描き出したこの映画の魅力に迫ろうと思う。

「ストリートファイター 暗殺拳」のあらすじ

ストリートファイター 暗殺拳出典:http://www.sosgamers.com/noticias/street-fighter-assassins-fist-japon/

師匠・剛拳(小家山晃)の元で、格闘術の修業に精を出すリュウ(マイク・モー)とケン(クリスチャン・ハワード)。 “波動の力”を体得するために努力の日々だが、なかなか芽が出ずに苛立ち始めていた。そんな二人を見た剛拳は、暗殺拳の極意である“波動の力”を直接伝授することを決意。しかしその表情は明るいものではなかった。剛拳はゆっくりと二人に話を始める。“波動の力”をめぐる過去の苦い記憶が語られるのであった。

ゲーマーの心をがっしり掴んだ『オタク映画』

ストリートファイター 暗殺拳出典:http://blog.geekeriashop.com.br/2015/10/22/geek10-reboots-e-remakes-de-sucesso/

この映画の最大の魅力は『オタク映画』というところである。
少々説明が必要だが、言いたい事は簡単だ。つまりは『これが俺たちの見たかった波動拳!』『これが昇竜拳!』『そしてこれが竜巻旋風脚だ!』ということである。ゲームの実写化作品としては凄くマシな方という事実があり、実写化するにあたって無理がないのが逆に驚かされるくらいだ。キャラクターのビジュアルも相当頑張って原作に近付けられており、中でもケンなんかは秀逸そのものだ。『よくぞここまで』と感心してしまう。
アクション映画としてもよく出来ていて(少なくともふざけた感じのフワフワアクションではない)、ゲームの個性を上手く映画作品に昇華させているのを感じる。代表的な必殺技の波動拳をとってみても、構えから発射モーション、CGやSEなど、どこをとってもチープさはなく、ありがちだが過去に例のない『無理のないストリートファイター映画』に仕上がっている。
はっきり言って、今のゲームやアニメの実写映画化にオタク達は疲れている。自分の好きな作品が実写映画化されると聞くのは、オタクにとって死の宣告のようなものだ。まず成功した例が少なく、限りなく駄作に近付く可能性が高いからである。具体例が欲しい方は「ドラゴンボール エボリューション」という素晴らしい先駆者がいるので、漫画やアニメの『ドラゴンボール』を想像した上で視聴してみるととても素敵な体験ができるだろう。
再三言うが、そんな中で「ストリートファイター 暗殺拳」は多少なりともマシな実写映画化を果たしている。アクション映画としてマシなのに加えて『殺意の波動をめぐる豪鬼の葛藤』や『御曹司のはずのケンがなぜ武術の鍛錬をしているのか』などのファンにはたまらないTipsを多数取り揃えており、オタク達はもうメロメロだ。

ジョーイ・アンサーという男は我慢ができなかった

ストリートファイター 暗殺拳出典:http://www.yzgeneration.com/street-fighter-assassins-fist-de-lepicness-a-nen-plus-finir/

『ストリートファイター』シリーズの大ファンだという監督のジョーイ・アンサー。彼がこの映画に着手するきっかけは、過去の『ストリートファイター』の映画にあった。アメリカ人のキャラクター、ガイルがご都合的に主人公を務める1995年の「ストリートファイター」。人気キャラクター・春麗を中心に物語が展開する2009年の「ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー」。ジョーイ・アンサーはこれらの実写映画に満足しておらず、世界観と乖離した作品だとすら語っている。そのため彼は自らが監督となり、より『ストリートファイター』の本質に迫った映画を撮ろうと考えた。ファンにとっては見逃せない『豪鬼』『波動の力』『殺意の波動』などの要素を盛りに盛り込んだ結果できた作品が、2010年にYouTubeで公開された「Street Fighter: Legacy(原題)」である。
ファンからの好評ぶりは凄まじく、第二次格闘ゲームブーム(後述)の最中だった格闘ゲーム界隈は大いに盛り上がった。『俺たちの見たかったストリートファイターの実写だ!』と、ジョーイ・アンサーの功績を称える声があちこちで挙がっていたのを今でも覚えている。この反響のおかげで彼は長編映画(後の本作)の製作をはじめることになる。そして何よりも大きいのが、版権元のカプコンUSAからの権利を承諾された事だろう。

創作が公式に“逆輸入”されるという驚きの展開

ストリートファイター 暗殺拳出典:http://u0u1.net/CPgL

最初はひとつのファンムービーだった動画が、版権元の承諾を得て『公式作品』として作られる事になった。創作活動をしている人ならこの出来事の衝撃がどのようなものか想像がつくのではないかと思う。本来、「Street Fighter: Legacy」のような二次創作作品は法的には“黒に近いグレー”でしかない。このゲームが好きだから、自分が作りたいから、版権元の了承を得ずに作ってしまうという、その程度の動きでしかない。当然ながら、版権元であるカプコン社に『著作権の侵害にあたるので公開を止めろ』と言われたら反論の余地はないし、何らかの訴えを起こされる可能性は十分にある。そういう現状を覚悟した上で創作活動をしているのだ。
それがどうだろう。本作の場合は『ストリートファイター』という作品にかける熱意、映像作品としての完成度の高さ、ファンからの応援と期待の声など……、それらを使って版権元を黙らせてしまったどころか、映画を作る事の責任を負わせてしまったのである。こんなことが起こるとは誰も予想していなかっただろう。きっとジョーイ・アンサー本人でさえしてなかっただろうし、カプコン社もこのような作品が会社の外から誕生するなんて思ってもみなかっただろう。

第二次格闘ゲームブームの盛り上がりが生んだ映画

ストリートファイター 暗殺拳出典:http://nerdist.com/akuma-speaks-joey-ansah-on-street-fighter-assassins-fist/

第一次格闘ゲームブームを生んだのが『ストリートファイターⅡ』ならば、第二次格闘ゲームブームを生んだのも『ストリートファイターⅣ』である。格闘ゲームというジャンル自体は続いていたものの、第一次格闘ゲームブームほどの盛り上がりは見られず、ゲームのジャンルとしては先細りという他ない状態が続いていた。そんな中、2008年に稼働を開始したカプコン社の『ストリートファイターⅣ』は懐かしのキャラクターと進化した3Dグラフィック、難しすぎず奥が深いとシステム等を引っ提げてゲームセンターに登場した。後に『スーパー~』『ウルトラ~』とバージョンアップを繰り返されることになるこのシリーズは、ゲームとしての面白さももちろんだが、『インターネットを使った対戦や配信という“新しい遊び”と上手く適合した』『e-Sports種目としての競技性の高さ』などが評価され、大人気を博した。梅原大吾をはじめとする日本人プロゲーマーの誕生や、高額の賞金のかかった大規模トーナメント大会など、様々な方面で盛り上がりを見せてくれた。これ以降、カプコン社以外の会社も続々と新規格闘ゲームを制作。『ストリートファイターⅣ』からの盛り上がりを、便宜上『第二次格闘ゲームブーム』と呼ばせてもらう。
この第二次格闘ゲームブームの中で誕生したのが「Street Fighter: Legacy」であり、「ストリートファイター 暗殺拳」である。見方を変えれば、監督のジョーイ・アンサーでさえ『格ゲーブームに乗せられて映画を作った人』でしかない。全世界のユーザーが『ストリートファイターⅣ』というゲームで盛り上がったからこそ生まれた作品である。プレイヤーの情熱がひとつの形になった結果と言えよう。この映画もまた、格闘ゲームシーンの新たな盛り上がりによって起こった出来事の一つである。
ちなみに、もちろん私も『ストリートファイターⅣ』をプレイしていた。使用キャラはエドモンド本田だ。日本男児ならパンチボタン連打で突っ張りでごわす。ごっつぁんです。

終わりに

ストリートファイター 暗殺拳出典:http://www.agentsofguard.com/webseries-review-street-fighter-assassins-fist/

この映画にも惜しい部分はある。中でも無意味な日本語へのリスペクトは目に余る。ころころと台詞が英語から日本語へ、日本語から英語へと変わるのは視聴者にストレスを与えるだけだし、『暗殺拳(アンサツケェン)』という言葉の響きにこだわりすぎるのも滑稽だ。だがこの映画にはそれらを差し引いてもまだまだ魅力が満ち溢れており、私は色々な人に「ストリートファイター 暗殺拳」を勧めたいと思っている。
格闘ゲームといえば、最近気に入ってプレイしているのは『アンダーナイトインヴァース』というゲーム。仙台のゲームセンターで、時々対戦会のプレイ実況をさせてもらったりしている。システム周りの読み合いが中々に面白いゲームなので、もっと人口が増えて欲しいと思っている。ファンの声というのは一つ一つは小さいかもしれないが、もしかしたら将来的には物凄く望ましい形で展開してくれるかもしれない。ジョーイ・アンサーのような存在が現れて映画化する可能性が無くはない。そうなったら、なんていうか、なんかちょっと面白いな。そう思いながら今日も私は100円玉を入れるのだ。

ストリートファイター 暗殺拳の動画を見る

映画みちゃお!の映画情報

題名 ストリートファイター 暗殺拳
ジャンル アクション
監督 ジョーイ・アンサー
出演 マイク・モー
クリスチャン・ハワード
制作年度 2013年
本編時間 101分
製作国 イギリス

ライタープロフィール

三田健一
三田健一
26歳。自称インターネット長文屋さん。
文字書きとして創作活動をする傍ら、2016年より映画みちゃお!の編集担当Aとして勤務。
好きな食べ物はバウムクーヘンと天下一品ラーメンです。

ライター:三田健一