「キャロル」同性愛・LGBTをテーマにした、心に残る映画②

 -

   

生まれも育ちも異なる二人の女性の愛の逃避行を描いた恋愛映画。原作は、アラン・ドロンが主演したことで有名なフランス映画「太陽がいっぱい」(1960)の原作を著したパトリシア・ハイスミスが別名義で発表した長編小説である。この小説は多くの同性愛者の好評を得たという。

監督は、1950年代のアメリカを舞台に白人の人妻と黒人男性の禁断の恋を描いた「エデンより彼方に」(2002)を手がけたトッド・ヘインズ。ヘインズは、本作においても1950年代におけるアメリカの描かれなかった暗部に視点を向けている。

キャロル出典:http://blog.goo.ne.jp/onscreen/e/e8482e84c19c649837babf5dfade88d1

ストーリー

1952年のアメリカ・ニューヨークのデパートで働いているテレーズには、なかなか結婚に踏み切れないでいる恋人のリチャードがいた。テレーズはカメラマンを目指しながらデパートの玩具売り場でアルバイトをしていた。

ある日、テレーズが働く玩具売り場に金髪の美しい女性キャロルが娘のクリスマス・プレゼントを買いにやってきた。見た目は裕福そうだがどこか謎を秘めたキャロルの雰囲気に、テレーズは一目惚れしてしまう。

テレーズは、キャロル宛にクリスマスカードを贈ると、返事が来て二人は会うことになる。キャロルは夫との離婚訴訟の最中だった。テレーズもリチャードとの結婚に対するストレスや将来への不安を抱えていた。次第に親密になった二人は、車で旅行に出かける。

キャロルとの旅を通じて、本気でキャロルを愛するようになっていくテレーズ。キャロルもテレーズを愛するようになり、旅の最中、二人は関係を結ぶ。しかしその後、二人の運命を揺るがす事態が起こることに……。

受賞歴

第68回カンヌ国際映画祭:女優賞(ルーニー・マーラ)受賞

キャロル出典:http://barttro.blog.fc2.com/blog-entry-21.html

作品分析

1930年代から1960年代末頃までに製作されたアメリカ映画は、暴力描写や過剰な性表現を規制するヘイズ・コードという検閲制度に縛られていた。ヘイズ・コードには同性愛も含まれ、同性愛は殺人行為や性的倒錯と同じ位置に括られた。

そのため、1950年代の映画はどれも表面的な暴力描写や残酷表現、露骨な性描写がなされた映画は存在しない。機知に富んだ映画人たちは、暗喩を用いた曖昧な表現でヘイズ・コードにおける諸々の禁止行為を巧みに表現していた時代だった。

本作の監督を務めたトッド・ヘインズは過去作「エデンより彼方に」で、1950年代において機知に富んだ映画人の一人であるダグラス・サーク監督の「天はすべて許し給う」(1955)をベースに、実際の1950年代に描くことができなかったアメリカのタブー(異人種間恋愛、不倫、同性愛)をリアルに描き抜いた。

トッド・ヘインズは、本作でも1950年代におけるアメリカのタブーの映像化に挑戦している。特に、女性の社会における地位の低さや恋愛の不自由さを見事に炙り出している。

成宮秋祥の映画レビュー

この映画は“視線の映画”と言っていいほど、登場人物の視線の交錯によって人間の感情の移ろいが巧みに表現されている。序盤のキャロルとテレーズの出会い、二人の会話シーンが特にそれを表しているように思う。

キャロルを演じるケイト・ブランシェットも巧いが、個人的にはテレーズを演じるルーニー・マーラの視線の力強さにグッと来た。本気でキャロルを愛してしまったという感情を感じ取れたからだ。

本作の話から少し逸れるが、1950年代のアメリカ映画における同性愛がどのように描かれてきたのかを追ったドキュメンタリー映画に「セルロイド・クローゼット」(1995)がある。映画が誕生した頃から同性愛をタブー視した1950年代、そして現代における同性愛の表現の変遷を多くの映画人のインタビューを交えて描いている。本作を観て、1950年代の映画における同性愛の表現や扱いに興味を持った人にぜひお薦めしたい。

キャロル出典:http://machinaka.hatenablog.com/entry/2016/02/13/024220

キャロルの動画を見る

ライタープロフィール

成宮秋祥
成宮秋祥
キネマ旬報(読者の映画評)に2年間で掲載5回。ドキュメンタリー雑誌『neoneo』(neoneo web)や『ことばの映画館』(ことばの映画館Web)に映画レビューを寄稿。映画交流会「映画の”ある視点”について語ろう会」主催。

ライター:成宮秋祥