「ボーイズ・ドント・クライ」同性愛・LGBTをテーマにした、心に残る映画③

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1993年のアメリカ・ネブラスカ。性同一性障害のブランドンは、従兄で同性愛者のロニーと暮らしていたが、軽犯罪を犯したため町を出て行くことになった。男装してフォールズタウンという小さな町へ向かったブランドンは、その町のバーでジョンとトムら地元の青年たちと知り合う。

ジョンの愛人の娘ラナと知り合ったブランドンは、次第にラナと恋に落ちる。ブランドンとラナが互いに惹かれあう中、ジョンも密かにラナに惹かれていた。ジョンは元詐欺師で暴力的な性格をした危険な男だった。ブランドンは自身の秘密を守りつつ、ジョンと距離を取り、ラナと愛し合った。

そんなある日、ブランドンが犯した犯罪が明るみになり逮捕されてしまう。ブランドンは面会に来たラナに真実を迫られ、自分が性同一性障害だと告白する。ブランドンを心から愛するラナはその事実を受け容れる。しかし、同じくブランドンの真実を知ったジョンは、彼を激しく嫌悪するようになっていった……。

解説

ボーイズ・ドント・クライ出典:http://urx2.nu/CBXZ

性同一性障害をテーマにした複雑な青春映画である。また実際に起きた出来事を元に製作されており、その衝撃的な内容は大きな話題を呼んだ。性同一性障害のブランドンは、体が女性ながら心は男性であると自認して生きている。このように性同一性障害は、身体的な性と心の性が一致しない状態を指す障害である。

コロンビア大学で映画を学んでいた監督のキンバリー・ピアースは、卒業製作映画として南北戦争時に薬物に溺れた女性兵士についての映画の構想を練っていたが、偶然ブランドンに関する記事を読み、映画の製作に思い至った。ピアースは、実際にブランドンと関係のあった人たちにインタビューを行い、ダブルワークをしながら資金を集め、映画を完成させた。

受賞歴

第72回アカデミー賞:主演女優賞(ヒラリー・スワンク)受賞

作品分析

ボーイズ・ドント・クライ出典:http://blogs.yahoo.co.jp/kumyon_nesan/57180685.html

本作がアカデミー賞を受賞した第72回アカデミー賞にノミネートされた映画には、作品賞を受賞した「アメリカン・ビューティー」(1999)を筆頭に毒のある映画が多い。現代に生きる人々の孤独や悩みの交錯を描いた群像劇「マグノリア」(1999)や、心を病んだ少女たちの葛藤を描いた「17歳のカルテ」(1999)、冴えない男の妄想のような不条理喜劇「マルコヴィッチの穴」(1999)などがそれに該当する。これまで映画であまり描かれることのなかったリアルな人間の闇に踏み込んだ話、知られざるアメリカの姿を生々しく描いた映画が多く製作された年だといえる。

20世紀末から21世紀初めは、アメリカ以外にも性同一性障害をテーマにした映画が多数製作されている。人の性の問題を描くことがオープンになった時代を象徴しているように思う。日本の国民的テレビドラマ『3年B組金八先生』第6シリーズ(2001)において性同一性障害を抱えた生徒が登場している。その他、奥田瑛二が主演した「極道記者2 馬券転生編」(1994)では、奥田が演じる新聞記者と性同一性障害の人物との恋愛を描いている。フランスでは、性同一性障害の子どもを描いた「ぼくのバラ色の人生」(1997)が有名である。そして、第72回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞したスペイン映画「オール・アバウト・マイ・マザー」(1998)も性同一性障害を描いている。

成宮秋祥の映画レビュー

ボーイズ・ドント・クライ出典:http://ameblo.jp/619012-0711/entry-10841989965.html

ブランドンを演じたヒラリー・スワンクは繊細な感情表現ができる人で、終盤は感情移入しながら観てしまった。そして演技が巧すぎるが故に二度と観たくない迫力があった(ちなみに彼女の本作の出演料は低予算ゆえに3000ドルだったという)。そして、ブランドンを嫌悪するようになったジョン役のピーター・サースガードの過剰なまでの暴力・暴言に圧倒される。どうしてそこまで人を憎めるのか? こちらも芝居とは思えないリアルさを放ち、複雑な気分になる。トラウマ覚悟で一度は観て欲しい映画である。

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ライタープロフィール

成宮秋祥
成宮秋祥
キネマ旬報(読者の映画評)に2年間で掲載5回。ドキュメンタリー雑誌『neoneo』(neoneo web)や『ことばの映画館』(ことばの映画館Web)に映画レビューを寄稿。映画交流会「映画の”ある視点”について語ろう会」主催。

ライター:成宮秋祥