「めぐりあう時間たち」同性愛・LGBTをテーマにした、心に残る映画④

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実在の英国人作家ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』に関連する三人の女性の苦悩を美しい映像と音楽で描いた人間ドラマである。

1923年、イギリス・ロンドンの田舎町で療養生活を送っていた女流作家のヴァージニア・ウルフは、新作『ダロウェイ夫人』を執筆していた。しかし田舎町での生活に不満が溜まっていた。ヴァージニアは夫のレナードに自身の苦悩をぶちまける……。

1951年、アメリカ・ロサンゼルス。『ダロウェイ夫人』を愛読する専業主婦ローラは、優しい夫と裕福に暮らしていたが、理想の主婦を演じることに疲れていた。ある日、親友のキティに思わず口づけをしてしまったローラは、自分の本当の気持ちを知るが、キティには拒絶される。やがてローラは家族を捨て、家を出ていってしまう……。

2001年、アメリカ・ニューヨーク。『ダロウェイ夫人』の主人公と同じ名前を持つ編集者のクラリッサは、エイズを患った友人の作家リチャードの受賞パーティーの準備をしていた。クラリッサは病のため精神的に衰弱していたリチャードの世話をしていた……。

解説

めぐりあう時間たち出典:http://ley-line.hatenablog.com/entry/2015/06/25/145459

三人の女性の苦悩を描いた映画であるが、この三人の女性にはどれもイギリス文学の傑作『ダロウェイ夫人』が関係している。『ダロウェイ夫人』のストーリーや設定などを絡めながら三人の女性の表に出せない苦悩が絶妙な時間進行によって交錯する。

そして、三人の女性の想いが交錯していきながら、静かにそれぞれの人物たちの気持ちが変容していく過程が見どころである。

「つぐない」(2007)や「路上のソリスト」(2009)の撮影で知られるシェイマス・マクガーヴェイの艶やかな美しい映像や、本作で第56回英国アカデミー作曲賞を受賞したフィリップ・グラスの心揺さぶる音楽も魅力である。

受賞歴

めぐりあう時間たち出典:http://blog.livedoor.jp/kagome_2005/archives/50250142.html

第75回アカデミー賞:主演女優賞(ニコール・キッドマン)受賞

第60回ゴールデン・グローブ賞:作品賞ドラマ部門、女優賞ドラマ部門(ニコール・キッドマン)

第53回ベルリン国際映画祭:銀熊賞(女優賞)受賞(ニコール・キッドマン、メリル・ストリープ、ジュリアン・ムーア)

作品分析

ヴァージニア・ウルフの晩年の人生と、彼女が書いた『ダロウェイ夫人』の物語の一部を用いて、二つの物語を作り出し、三つの時代に生きる三人の女性の三つの物語となっている。三人の物語は、どれも独立して一見すると物語的な繋がりは無関係に思えなくもないが、三人の女性の人生への疲労、表に明かせない自身の同性愛という性、愛すべき人たちへの想いといった曖昧で抽象的な要素では繋がりを見せている。形として表せない部分での人間同士の繋がりを描こうとした意欲作といえる。

成宮秋祥の映画レビュー

めぐりあう時間たち出典:http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20111001/1317493250

この映画には優しい心を持った人がたくさん出ている。20世紀に生きるヴァージニアとローラは、時代性もあって自らの同性愛者という性を周囲に明かせないでいるが、それでも周囲の人物たちには優しさが感じられる。言うなれば、周囲が優しいからこそ、その優しい世界を壊したくなかったようにさえ思えてくる。しかしそれでも彼女たちは、自らのありままの人生を生きようともがき苦しむ訳なのだが、その辺りの彼女たちの様子は演じる女優陣の熱演もあってとても共感できる。

特殊メイクを駆使して、ヴァージニアを演じオスカーまで獲得したニコール・キッドマンも確かに良いが、個人的には21世紀の時代に生きるクラリッサを演じたメリル・ストリープの演技が一番良かった。エド・ハリスとの対話場面は、台詞の間や互いの感情表現の機微が絶妙でとても見応えがあった。

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ライタープロフィール

成宮秋祥
成宮秋祥
キネマ旬報(読者の映画評)に2年間で掲載5回。ドキュメンタリー雑誌『neoneo』(neoneo web)や『ことばの映画館』(ことばの映画館Web)に映画レビューを寄稿。映画交流会「映画の”ある視点”について語ろう会」主催。

ライター:成宮秋祥