第2章 『911、そして震災からの変化』~桜井薬局セントラルホール~

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―支配人という立場から思う「映画」とは?


桜井薬局セントラルホール 遠藤 瑞知

桜井薬局セントラルホール支配人 遠藤 瑞知(えんどう みずとも)さん

遠藤 瑞知さん:「映画は人生の参考書」だと思っています。出演者のファッションが気になったり、流れる音楽を好きになるかもしれない。映画の製作国の歴史や文化に興味を持ち始めることもあるでしょう。映画を見ていると、“なんとなく気になるもの” に出会う可能性が高いと思うんです。映画館という閉鎖された空間で、スマホの電源切れだ、立って歩くな、しゃべるなと不自由な状況に置かれるわけですよ。そうすると映画に没頭するしかないし、その説得力が違いますよね。いろんなことに気づかされると思います。さらにエンドロールを見れば、衣装のブランドや楽曲リストなど、たくさんの文字情報も載っています。まさに参考書です。 

「映画はリトマス試験紙」とも言えます。映画館には様々な人たちが集まって一緒に鑑賞しています。真っ暗な空間で、見ず知らずの人たちの映画に対する喜怒哀楽といった感情を垣間見ることができるんですね。自分とは違うシーンで笑ったり泣いたり。そういう違いに気づかされる面白さがあると思います。

―最近気になった映画は?


桜井薬局セントラルホール 受付

遠藤 瑞知さん:「大地を受け継ぐ」というドキュメンタリー映画の井上監督と話をする機会がありました。福島の原発事故が原因で農家の男性が自死し残された家族のもとを、東京の若者らが訪ねるというドキュメンタリーです。監督が知人から紹介されてその遺族の話を聞いたときに感じたことを、同じように若者にも体験させたいというところから企画が始まったそうです。当初は、一般人である遺族の母子らが若者に話をするという構成で映画が成立するのかとリスクを感じていたそうです。結果的にそれは危惧に終わり、若者らの感じたことを聞くという展開で、彼らの道行と心の変化を追ったドキュメンタリーになりました。東京から福島へ向かうときは遠足気分だった若者らが、母子の話を聞いてからは明らかに変化した姿を、映像として捉えています。

東京には専門館もありますし、ドキュメンタリー映画は増えているのではないでしょうか。カメラなどの機材が手軽になって、言ってしまえば誰でも映像が撮れるようになっています。だからこそ、きちんと何を伝えたいのかが明確じゃないとダメです。

その井上監督が、ディズニーアニメ「ズートピア」についてこんな感想を語っていました。ハリウッド映画の主人公が変わってきていると。例えば、これまでのヒーロー像と言えば、勝手に人の領域に入って行き、引っ掻き回して無理やり問題を解決するというパターンが多かった。ところが「ズートピア」の主人公はウサギで、夢である警官は肉食動物がなるもので草食動物には出来っこないと差別されている。必死に頑張って警官になり手柄を立てた矢先、思わず差別発言をしてしまう。自分が差別される側だったのに、いつのまにか差別する側にいる。そんな自分と葛藤する主人公を描くなんて、これまでなかった。911アメリカ同時多発テロ事件から15年かかって、ようやくアメリカ市民にそういった主人公(ヒーロー / ヒロイン)像を求める感情が生まれてきたのではないかと。

―震災以降、お客さんも変わってきていますか?


桜井薬局セントラルホール 劇場

遠藤 瑞知さん:震災によって、それまで日常と思っていたことが突然断ち切られました。毎日続けてきたことなどが、ある日無くなってしまう。否応なく、考えや生き方を変えざるを得ないという状況になりました。ひとりひとりに大きな変化をもたらしたし、それを受け入れるには物凄いエネルギーが必要だったんですね。

震災から1年後となる2012年3月に震災映画特集をしました。自分らの置かれていた状況が客観的にどう見られていたか知りたかったんです。震災時は当事者だし、入ってくる情報はラジオ放送と緊急地震速報ばかり。電気が止まっていたおかげで、身近に起きていた悲惨な映像を見なくて済みました。1年が経ち、ようやく自分らに何が起こっていたかを知りたくなって特集上映を組みました。10本近く上映した中で、1作品だけ複数のクレームが来ました。あの描き方はひどいと。当事者がやっと落ち着いてきて、1年前を振り返ろうというのに、全く被災者のことを考えていない映画だというんです。他の作品はちゃんと被災者に寄り添う部分があったが、体験者としてあれは許せないというご意見でした。そういった意見を聞くことができたことも含め、被災地だからこそやる意味のあった特集上映だったと思います。
この企画はまさにミニシアターだからこその企画でした。シネコンでは出来ないでしょうね。

第3章『地域に愛される映画館として』へ続く

映画みちゃお!の映画情報

題名 大地を受け継ぐ
ジャンル ドキュメンタリー
監督 井上淳一
出演 樽川和也
樽川美津代
制作年度 2015年
本編時間 86分
製作国 日本
あらすじ 2011年3月24日、福島県須賀川市で農業を営むひとりの男性が自ら命を絶つ。残された妻と息子は、原発事故により汚された土地で農作物を作り続ける。2015年、その二人のもとを東京に住む16~23歳の学生11人が訪ねる。

ライタープロフィール

映画みちゃお!取材担当

ライター:映画みちゃお!取材担当